教会が仮放免者の「隣人」になる時 医療受けられるよう支援会設立 JEA宣教フォーラム福島「日本社会と宣教(教会)」

「これまでのフクシマと、これから」をテーマに、宣教フォーラム福島実行委員会・日本福音同盟(JEA)宣教委員会は昨年11月23、24日、「JEA宣教フォーラム福島2021」を、福島県からのオンライン配信で開催した。2日目には10の分科会が開かれたが、この欄ではその一部を紹介する。今回は分科会「日本社会と教会『異質者として排除される非正規滞在外国人の苦悩と宣教・共生の課題』」の内容を届ける。【中田 朗】
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発題は、渡辺聡氏(東京バプテスト教会〔TBC〕牧師)の「TBC デテンション・ミニストリー・レポート」、井上貴詞氏(東京基督教大学国際キリスト教福祉学科キリスト教福祉学専攻准教授)の「ケーススタディ イラン人I氏との出会いから」、阿部頼義氏(グレースガーデンチャーチ牧師)の「仮放免者の医療支援」。3氏とも入管収容者や仮放免者の支援に携わる。記事では、阿部氏のケースに焦点を当てる。

阿部頼義氏

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阿部氏は神奈川県海老名市の開拓教会を牧会。地域教会の牧師として宣教活動する中、カメルーン人のマイさんと出会った。「スモールグループメンバーの友人ということで、家庭集会に来てくれた。無邪気で明るく、心の優しい女性だった。しかし、祈りの課題を聞くと、『お腹が痛い。不正出血がある』とのこと。当時、私は全くの無知だったので、『病院に行ったら』と勧めた。カトリック信者の彼女は『大丈夫。神様に祈っているから』との返事だった。今思えば、健康保険を持っていないので、病院に行けずに我慢していたという事情があったのだなと。後悔した」
その数か月後、マイさんが捕まって施設に入れられたことを知る。収容されたのは、東京出入国在留管理局の施設だった。阿部氏はこの時、マイさんが国内紛争が激化したカメルーンから日本に逃げて来た外国人、難民申請中の仮放免者であることを知った。「マイさんは、理解あるオーナー(外国人)の好意でアパートで暮らしていた。働けないので、同国人からの仕送り(不定期)やフードバンク、NPОからの支援に頼らざるを得ず、電気、ガス、水道が止まることもあった」
2017年、入管施設に収容された。収容期間中、マイさんは胸のしこり、お腹のいたみ、不正出血を訴えたが、入管側は放置状態。1年半もマイさんの病が見過ごされた。18年2月に仮放免となり座間市内に住んだが、1か月後に腹部の痛みを訴え、病院に緊急搬送され入院。「腹部より胸のしこりのほうが気になる」との医師の診断で検査した結果、乳がんが判明。すぐに治療を始めなければならなかった。

NHK「おはよう日本」から。左が病床のマイさん

「ここで健康保険がないことが大きな壁となった」と阿部氏。「治療には何百万円もかかる。ただ、医師は、制度上はどうすることもできないが、治療が必要な患者がいる以上放置できないと、便宜を図ってくれた。治療費は600万円以上だが、今も未納のままだ」
退院したが、20年に再発。この時、がんは脳、骨、肝臓まで転移しており、余命は3か月だった。同時にアパートを追い出され、ホームレス状態に。阿部氏は、マイさんを受け入れてくれるシェルター探しに奔走。「何か所も当たったが、末期がんという状況ではどこも受け入れてもらえなかった。最終的に都内の修道院に保護された」
病院探しも難航した。「無料低額診療の病院を何か所も当たったが、在留特別許可・健康保険がないとすぐに受け入れてもらえなかった。最終的には修道院のつながりで、都内のカトリック系の病院が保護してくれた。『一体、何世紀の話なんだ』とがく然とした」
「法務大臣が人道的に在留を特別に許可すれば国の制度が使える」ということで、弁護士や支援者と共に法務省にかけあった。その結果、治療のために1年間の在留資格が認められた。しかし、その「在留カード」が届いたのは21年1月23日、マイさんが亡くなって3時間後だった。
この体験を経て阿部氏は、ボランティア団体「難民医療支援会」(URL https://refugeesmedicalsupportassociation.wordpress.com/)を立ち上げた。目的は難民申請者や仮放免者が医療にアクセスできるようサポートすること。北関東医療相談会アミーゴスがモデルだ。「『誰がこれらの者たちの隣人になるのか。行って、あなたも同じようにしなさい』(ルカ10・36、37参照)。この神様の召しを受け活動を始めている」

クリスチャン新聞web版掲載記事)